ある雪の日に

「見て見て、龍ちゃん!」

朝の冷たい空気に綾音の明るい声が響いた。
綾音はカーテンを開け、銀世界に染まった惣島邸の庭を見て楽しそうにしている。
雪が降って嬉しいなんて、無邪気な子供のようだ。
その様子に龍斗は頬を緩ませた。
龍斗は綾音のこういうところが大好きだ。
素直で可愛い、背伸びのない素直さ。
「ねえ、外出てみよう!」
明るい綾音の誘いに、断る理由はなかった。

雪は音も立てず降り積もる。
静かだ。
ひんやりとした空気に、屋内で温められた体が強張る。
しかし綾音は積もる雪に足跡をつけて楽しそうだ。
犬のように庭をかける。
「綾音、その辺りはー
段になっているー、と言うのは遅かった綾音は段差にバランスを崩し、よろけ倒れた。
慌てて龍斗は駆け寄り手を差し出す。
綾音はその手を掴んでーそのまま龍斗の腕を引っ張った。
そうされるとは思わず、龍斗は綾音に倒れ込んだ。
「綾音、大丈夫か」
慌てて龍斗は起き上がると綾音はにっこりと笑っていた。
「えへへ、冷たい?
その顔はまるで悪戯に成功した子供のように破顔している。
龍斗は、それを見てニヤリと笑い綾音に覆いかぶさった。
「やだー!冷たい!だめだめ
そう言いながらも綾音は嬉しそうだ
2人はそうして雪をかけたりかけられたり、子供の頃に戻ったように遊び、大笑いした

そうしてあそんでいると、龍斗がくしゃみをした。すっかり体が冷えたのだろう。
綾音は、家に入るかと提案しようとしたところ、開いた口からくしゃみがでた。
伝染したようなくしゃみに、2人は声をそろえて笑った。

屋敷に戻る。暖かい空気に一気に体が冷えを感じた。
執事の葉月にタオルを渡され、2人はびしょ濡れのコートを脱ぎ、暖炉の焚いてあるリビングへ入る。
綾音が暖炉の前で座ったので、龍斗も隣に座る。

なんとも楽しい雪の日だった。